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横浜地方裁判所 平成元年(行ク)5号 決定

申立人 神奈川県地方労働委員会

右代表者会長 秋田成就

右指定代理人 大村武雄

申立人補助参加人 国鉄労働組合

右代表者執行委員長 稲田芳郎

〈ほか三名〉

右補助参加人四名訴訟代理人弁護士 鵜飼良昭

同 野村和造

同 福田護

同 岡部玲子

同 岡田尚

同 星山輝男

同 伊藤幹郎

同 飯田伸一

同 武井共夫

同 小島周一

同 横山國男

同 坂本堤

右訴訟復代理人弁護士 岩村智文

同 西村隆雄

同 南雲芳夫

同 古川武志

右補助参加人四名訴訟代理人弁護士 森卓爾

同 小口千恵子

同 山田泰

同 影山秀人

同 中村宏

同 星野秀紀

同 小野毅

同 陶山圭之輔

同 湯沢誠

同 中込光一

同 三竹厚行

同 岡村三穂

同 滝本太郎

同 北川鑑一

被申立人 東日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役 住田正二

右訴訟代理人弁護士 西迪雄

同 秋山昭八

同 中村勲

同 向井千杉

同 富田美栄子

主文

本件申立てを却下する。

理由

第一  本件申立ての趣旨は別紙「申立の趣旨」記載のとおりであり、その理由の要旨は、次のとおりである。

1  申立人は平成元年五月一五日、神労委昭和六二年(不)第一五号、同第一九号、同第二九号及び神労委昭和六三年(不)第九号事件について、別紙「救済命令」記載のような内容の救済命令(以下、「本件救済命令」という。)を発し、これを同日被申立人に交付した。

2  被申立人は右命令の取消しを求めて訴えを提起し、右訴えは、横浜地方裁判所平成元年(行ウ)第一五号不当労働行為救済命令取消請求事件として係属中である。

3  被申立人は申立人が発した本件救済命令に従わない。

4  本件救済命令の主文第1項及び第2項の不履行状態を右訴訟の判決確定に至るまで放置するならば申立人補助参加人ら(以下、一括して「参加人組合」という。)に対する団結権侵害は著しく進行し、組織上回復困難な損害を受け、ひいては労働組合法の精神並びに申立人のなした本件救済命令の意義が没却されることになる。

第二  当裁判所の判断

一  一件記録及び審尋の結果によれば、申立の理由1ないし3の事実が一応認められる。

二  本件救済命令の適法性については、現時点においては重大な疑義があるとまでは認められない。

三  そこで、本件緊急命令の必要性について検討する。

本件救済命令は、参加人組合の組合員らが約一・三センチメートル四方の大きさの組合バッジを勤務時間内に着用したのは、会社の就業規則二〇条、二三条に形式的には抵触するが、それに対する取り外しの指導及び処分は、職場規律維持の目的を超え、組合バッジを着用しているのが国労組合員だけとなったことを奇貨として、組合バッジの着用を口実に参加人組合の活動を規制し、これにより参加人組合の弱体化を意図した支配介入行為であるとして発令されたものである。

また、本件緊急命令の申立てがなされたのは、救済命令の主文のうち、昭和六二年六月一二日付けでなされた厳重注意及び訓告の処分をなかったものとして取り扱わなければならないという部分(第1項)及び同年七月三日に支給した夏季手当のうち組合バッジ着用を理由として減額した額に年五分相当額を加えた額の金員を支払えとする部分(第2項)である。

したがって、本件緊急命令の必要性を判断するにあたっては、本件救済命令の主文第1項及び第2項の内容の緊急的、暫定的実現による参加人組合の組織及びその組合活動一般に対する侵害の除去という観点を中心に、併せて、処分を受けた組合員の個人的救済の必要性を検討することになるが、緊急命令の制度は、救済命令の取消訴訟の確定前に過料の制裁を背景として救済命令の内容を実現するものであるから、必要性の審査においても、救済命令の維持可能性と具体的な侵害の程度・求められている緊急命令の内容の両面から検討する必要がある。

疏明によれば、被申立人会社の就業規則二〇条三項には、「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」との定めが、また、同規則二三条には、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」との定めがあるところ、参加人組合は会社側による組織破壊攻撃に対する抵抗、団結の維持を標榜して、勤務時間中等の組合バッジ(約一・三センチメートル四方の大きさで、NRUの文字が記載されている。)の着用を組合員に指示し、別紙組合員目録記載の組合員らはこれに応じて、会社側の再三の警告、指導に対してもこれを着用し続けたことが認められるのであるから、現段階では、本件組合バッジの着用が正当性の認められない就業時間中の組合活動あるいは服装整正に関する就業規則違反行為に当たる可能性、ひいては、被申立人会社の警告、指導、処分を不当労働行為として排除した本件救済命令が違法とされる可能性を一概に否定することはできない。

他方、本件救済命令で不当労働行為とされているのは、組合活動の本質的な部分とはいえない組合バッジの着用に対する制止、処分にすぎないもので、参加人組合の活動の本体的な部分に対する侵害とはいえないうえ、求められている緊急命令の内容も個々の組合員についてみればおおよそ一万五〇〇〇円ないし三万五〇〇〇円程度の夏季手当減額分の返還と昭和六二年六月一二日の厳重注意、訓告処分がなかったものとして取り扱うことに止まるものである。

以上のような救済命令の維持可能性の程度、参加人組合の組合活動及びその団結権に対する侵害の程度、求められている緊急命令の内容を総合的に比較検討すると、現段階では、救済命令取消訴訟の判決による判断を待つことなく、緊急命令を発令する必要性を肯定するのは相当でない。

参加人組合は、緊急命令発令の必要性を根拠づけるものとして、本件処分、救済命令の発令後もバッジ着用に対する制止、処分が繰り返され、しかも処分は重罰化の傾向にあり、昇進、昇格にまで影響が出始めていることを主張する。

しかしながら、緊急命令が申し立てられている範囲は、本件救済命令のうち主文の第1項と第2項だけであり、法律上、本件処分後の制止、処分は本件救済命令の主文第1項、第2項の履行の有無に直接にはかかわりをもたないものといわざるを得ない。

四  したがって、本件申立ては必要性を欠き、理由がないことになる。

よって、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林亘 裁判官 山本博 吉村真幸)

〈以下省略〉

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